12/21 「マリアの賛歌」 三浦 遙 牧師  聖句:ルカ1:46-56

 クリスマスの物語に登場する、救い主イエス・キリストの母マリア。当時は14歳ごろであったとも言われている彼女に主の天使から突然の受胎告知がなされるのでした。主の天使の言葉を聞いたマリアは、同じく聖霊によって孕ったと聞いた親戚のエリザベトの元に「急いで」向かいます。マタイ福音書ではマリアの心情は全くないのに対して、今回さらっと書かれたこれらの描写の中に、マリアの焦りや戸惑いの心境がはっきりと描かれています。エリザベトを通して「神に出来ないことは何一つない」という主の天使の言葉を確信したマリアは主を賛美する祈りを捧げていました。

 しかし注目したいのは祈りの後半で、神の正義について語っている部分。それらの言葉は旧約聖書のハンナという女性の祈りに酷似しています。神は高慢な者を許さず、謙虚な者を引き上げてくださると祈るこれらの言葉は、旧約の物語においてイスラエル民族の王や、人間そのものの弱さを暗示するものとして描かれて行きました。しかしマリアの祈りは神の正義によって、救い主として過酷な運命を担う我が子の歩みが、世の力に虐げられることのないようにと願う、一人の信仰者としての、母としての祈りでもあります。そう願う母マリアの祈りとは裏腹に、イエスは人々のために、権力有るものに虐げられ、飢えたものと共に殺されていく。それでも、願わずにはいられない、求めずにはいられないと、不安を取りはらうように、神への感謝と共に、力強く願い祈るマリアの賛美の歌なのです。

 しかしそれと同時に、この祈りは主なる神の祈りの代弁でもあります。このクリスマスの物語は、主なる神が愛する自身の子を十字架の道へ送り出していく物語でもあるのです。それは「神はその独り子をお与えになったほどに、世を愛された」という言葉にあるように、わたし達ひとり一人のために、自身の手から愛する子を手放し、送り出されるのです。マリアの賛歌は神への賛美というわたし達の祈りと、愛する子を手放された神様の願いが込められた祈り。マリアはイエスが預言の通り十字架に掛けられて死に、天に挙げられる時まで、イエスと、神様を信じ歩み続け、齢14歳という若さであっても、聖母という与えられた役割を果たしたマリアの姿から、わたし達は励ましを受けるのです。

 この世に救い主を与えてくださった神様の深い愛と、その愛に応えるために共に歩み家族の愛を示したマリアの姿、クリスマスのこの時に今一度それらの愛を思い起こしつつ、歩んでいきたいと願います。

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